Newton別冊『ゼロからわかる人工知能 増補第2版』
どんな本
読めば大変なAIの歴史解説は数ページで済ませて、幅広く実用化が進んでいる現状を網羅し、それでもなお残る課題をあらためて提示して締めるオールカラー誌。進歩が著しい分野なだけあって分かりやすくも大分読みごたえがあった。
この本を勧めるとしたら
今の人工知能について知りたいけどフル活字の本は遠慮したい社会人に特におすすめ。まさに私。
数学はないけど説明にxとyの平面が出てくるから中学生から読めるだろう。学習用なら各専門家が何をしているか、何の謎に迫っているかなどの部分は不要なのでそこが省略された以下の方が読みやすくていいと思う。廉価にもなる。
各専門家が1人で書いた本はどうしても自分で研究している部分以外は「AIが使われています、進歩が目覚ましい」としか書きようがないが、多方面の協力を得て現状や新発見などを画像付きで載せられるのは科学誌ならではだと思う。
数年前に第1版が出ていたのを見たけどもう2版とは好評だったようだ。ますます歴史部分の解説は減っている。もはや完全に見分けがつかない架空の顔を生成するディープフェイク等の新技術、あるいは話題になったAIに奪われる仕事の話など、AIと教育や仕事に関する事柄が追加されていた。
本のステータス
- ISBN-10: 4315522155
- ISBN-13:978-4315522150
- 発行日:2020年3月5日
- 定価¥1800
- 本の目次
1 AIって何だろう?
6 AIとは何か
8 AIの歴史①~②
12 AIの活躍
14 シンギュラリティ
2 基礎から学ぶAIのしくみ
18 AIガイドマップ
20 機械学習①~③
26 ニューラルネットワーク①~②
30 ディープラーニング①~②
Column 人工知能も錯視図形にだまされた!
3 社会をかえるAI
38 AIの進化
40 将棋プログラム
42 アルファ碁
44 アルファゼロ
46 ディープフェイク
48 サッカーAI
50 材料開発AI
52 AIのひび割れ点検
54 AIの惑星探査
56 AIの病理診断
58 AIの内視鏡検査
60 AIとウイルス検査
62 創薬AI
64 AIドクター
66 AIの言語処理
68 翻訳AI
70 自動運転
4 AIの仕事と弱点
80 AIと仕事
82 フレーム問題
84 シンボルグラウンディング問題
86 AIの創造性
88 AIの未来
5 AIと共存する未来
92 AIとセキュリティ
94 AIと公平性
96 AIとプライバシー
98 汎用AI
100 シンギュラリティ
6 AIと教育
106 AIが学習法を提案
108 AIの機械学習と現代の教育
110 プログラミング教育
112 AIの弱点と人間の強み
114 AIと融合する教育
7 AIの新領域へ
118 Interview 山川宏 博士 人間と調和できる人工知能をつくりたい
126 Interview 金井良太 博士 AIに意識をもたせることで意識の本質にせまりたい
134 Interview 山本一成 氏 AIが将棋の可能性を広げてくれた
142 Interview 坊農真弓 博士 「ロボットは井戸端会議に入れるか」会話にあるルールを解き明かしたい
150 Interview 井上智洋 博士 AIが人間を仕事から「解放」してくれる
158 Interview 佐藤健 博士 AIに裁判の結果の理由を説明させる
166 Interview 平野晋 博士 AIに常識や倫理観,感情は必要か
注目点
ディープラーニング発展以前の本は40%がAI開発の歴史で、60%が神経の仕組みとそれを真似したプログラムの説明で終わるのを思い出した。それでも面白かったが、実用が近い、あるいは始まったばかりの分野の本はより楽しいものだ。
ある分野でAIが急に普及するきっかけ
自動運転車は、他の車両や歩行者、信号機とたがいに通信することで、死角にいる2輪車の存在まで把握できる。
人間が無意識にできてしまうことをAI技術者が必死に追いかけても当分できない、またはできたけど普及しないという事は沢山あると思う。AIのすることの安全性が100%でないならば80%の安全性でも責任をとれる人間の方が良いという事になる。医学なども特にそう。運転が楽になっても人工知能は責任を負わない、その上最新技術であるために高額の追加費用を払うなら要らないとってしまう。だから実現したところですぐに普及はしないだろうなとは思っていたけれども、人間が知覚できないものを認識できるなら話は別でしょう。創薬での活躍事例もどのような新規化学物質ならウィルスの突起に結合できるかといった、人間の脳では一度に処理できない範疇に優位性があるからだ。安全性や効き目などは後から人間が検証できる点で責任問題と相性も良い。
心や表情も人間だけのものではない
心や対人関係に関わる仕事はAI時代の聖域みたいな話も聞くが、
相手の感情を「喜び」、「不安」、「怒り」などに分類することができるうえ、本物の笑いと作り笑いを区別する能力では人間よりもずっとすぐれているといわれている。
サンプルさえ沢山あれば何でも学習してしまうからね、嘘ついているとかね。サンプル化しにくいだけで。表情判別アプリが使われるようになったらあちこちで修羅場になってしまうかもしれない。
人間の知能とは程遠い点もある
ディープラーニングを知ってる人ならgoogle翻訳に使われて進歩したことまでは知っているでしょうけど。日英翻訳が日本語の単語を英単語にする段階と、並び替える段階で別々。それぞれ確率的に(よくある変換)(よくある語順)に並べ替えているイメージだ。これは完全に単語の出現率のような統計的なやり方だね。人工知能が意味を理解してないのは分かっているけども、翻訳は想像以上に機械的だった。でもgoogleが解説しているわけではないからもう一工夫されているかもしれない。
AIがウィルスを判別する。PCR検査以外の方法
電極に空いた穴をウィルス一個が通った時の電気的な変化を学習したAIが、インフルエンザの型(A型とかB型とか)を判別する事例が興味深かった。このご時世だしね。
1個なら72%、20個あれば95%の精度でインフルエンザウィルスの型を判別できたという
PCR検査はウィルスのもつ特定の遺伝子を増殖させて微量でも検出できるようにするものだけど、こういった全く別の手法からも、新型コロナウィルスの様なものを判別できる手法が開発されると良いなとは思う。ある程度ウィルスが増えてからしか検出できないといった検出限界や精度に優位性があるかもしれない。
追加トピック「AI時代の教育」
指導者の教育を十分に行わないまま,とりあえずプログラミングツールを与えるだけのプログラミング教育を行っても、思ったような教育効果は得られないと心配する声もある。
英語を学んだら国際的に活躍する人間になるわけではないからね。プログラミングを学べば一緒に論理的思考力が身につく訳でもないし。IT企業で活躍する訳でもない。もちろん教え方と学び方次第だけど。途方もなく巨大な分岐やループ等の演算の繰り返しによって、身の回りのあらゆることが支えられているという事を学ぶことは良い事だとは思う。それに老若男女問わず、エクセル等でさっと処理できるようなことまで人力でやっていては時間が勿体ない。職場でも残念ながら普通に見かける。少なくとも単純で面倒な事務仕事を解決する道具としてプログラミングは必要だとおもう。
プログラミング自体はAIの歴史が70年と本書にあるようにとても長いもので、論理的思考力の必要性も叫ばれて久しい。それなのに急にプログラミング教育の話が沸くとなると、どちらかというと論理的思考力というよりGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)の様な巨大IT企業を日本に生み出すような人材が欲しい、みたいなところからスタートしてそうだと感じてしまう。動機は何でも役に立てばいいけれど。そのうち教育寄りの書を読むことにしよう。
AI時代を生き抜くのに確実に役立つことがあるとすれば、AIについて学んだ親や教育者がAIに奪われそうにない仕事を考えたり、AIに関する仕事ができるようにプログラミングを教える、あるいはAI人材が欲しい企業のイベントに行くとかではなく、人工知能技術が目覚ましく進歩している事を理解したうえで自己判断できるように、子供に関心を持ち続けてもらう事だと思う。積極的に関わるにせよ、そうでないにせよ、その先はより未来に生きている子供達の方が上手に判断できるはずだ。
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